「天使は読書をするのだらうか?」
彼はなんと美しい指で頁をめくるのだらう
そのほつそりとした指が本の頁をめくるたびにぼくは胸が締め付けられるやうでした
圖書室の?から差し込む光は彼のために注いでゐるのだとぼくは
紙がすりあふせつない音を聞きながらそれを確信したのです
彼は圖書室で、1册の本を借りました
それから圖書館の眞つKい門をくぐつてふたつめの角を右にまがり坂をのぼつて
誰にもあはずに
ちいさな公園へ入つてゆきました
ゆらゆらと燈る外燈のしたにきたときやつと彼はふりかへつてくれました
はじめまして。
はじめまして。
圖書室の?から光を浴びた彼はまるで天使のやうでした
公園の外燈に照らされた彼をぼくはもつと好きになりました
ぼくらはたつぷりと時間をかけてお話をしました
ぼくらがぼくらを分かり合うために
ぼくが知つてゐることばのほとんどを使はなければなりませんでした
彼はぼくのいふことをだまつて聞いてゐてくれてゐたのです
ぼくらはしつかりと手をつないでぼくらのことを話しました
彼の顏を見てその?が夕燒け色をしてゐます
うすい闇のなかで光合成をするようにまぶしい彼の姿にぼくはとても滿足しました
やがて外燈のあかりがちらちらと消えかかつてゐるのを見て
彼は立ち上がりましたが
ぼくはかへりたくありませんでした
さやうなら。
彼が背を向けたのがとてもかなしかつたので
先ほど握つてゐた手を(いつのまにはなしてしまつたのでせうか)もう一度にぎり返さうと手をのばしました
手にはかたい感觸がありましてそれは彼が先ほど借りた1册の本でした
彼は行つてしまひました
彼がゐなくなつてしまつて燈りはすつかり消えてしまひましたのでぼくは彼がくれた本を燃やしました
彼の脣のやうに愛らしい火をみてぼくはため息をこぼしました
彼のくれたいとしい本がすっかり闇にかえったのをたしかめて
つひぞこちらを見てくれることなかつた彼の瞳の色をいま懸命に思ひ出さうと
ぼくは圖書室への道を戻つてゐるところです
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